十首選 2017年7月号 (平成29年5月号掲載分より選歌) 

選者 三津野幸代(潮音・花鏡) 

 

 

 

・ つかれたね 十年を経し冷蔵庫しん夜小鳥の鳴く声をあぐ  岡田恵美子

 

・ 紅白も深夜労働規制さるフォーティエイト特例ならず  上月昭弘

 

・ わたくしは真紅のリボン恥じらいてポニーテールの写真に残る  清水保子

 

・ 兄の形見の毛皮のベストをはおりたりちょこんと座る冬の日だまり  尾花栄子

 

・ 柿ばたけぬけて葉擦れの細き道に見つけたる祠は既視感あふれる  岸本寿代

 

・ 土耳古青(ターキッシュブルー)の布に刺しをり銀いろの月を見てゐる子猫を二匹  山本圭子

 

・ やわらかきレタスのひと葉剝ぐようにあなたの心のぞいてみたい  中作裕子

 

・ 「云々(うんぬん)」を「でんでん」と読み白々と弁舌たくみな安倍総理なり  ひさの盈

 

・ 沢山の孫が自慢もなんのその好天の日曜来る者もなし  柴田虎雄

 

・ 兄が居てわがつれあひは子の如し飲みつつ酔ひつつ吉日なりき  浮田伸子


十首選 2017年6月号 (平成29年4月号掲載分より選歌) 

選者 郡 英子(東加古川短歌会) 

 

 

 

・ 三千億をかけて廃炉にすると言ふ政治の数字計りがたしよ  下村千里

 

・ 微笑めばほほえみ返す手を振りてたまに逢う子のマフラー可愛ゆし  尾花栄子

 

・ 陽はおちて明るさのこる夕空を突きさす如く機影とびゆく  井奥輝明

 

・ 雪の夜は母の夜ばなし「鉢木」(はちのき)の浮かびしばらくこころ温とし  岸本寿代

 

・ 廃校の遊具もっこり雪被り晴れ渡る日の光遊ばす  青田綾子

 

・ 日の斑散る谷に横たう杉の木に赤紫の羊歯芽生えおり  馬場久雄

 

・ 窓近く干したる君の青いシャツ春めく日差し受けてゆれいる  永瀬絹子

 

・ 甥っ子が家族を集めて発表す僕は来年結婚します  中作裕子

 

・ 有線に「ふるさと」の曲流れ来てひと日の暮るる笠形は雪  段床陽子

 

・ 雨傘をひらき干しゐる足元に昨夜の雨粒こぼれて落つる  山本圭子

 

 


十首選 2017年5月号 (平成29年3月号掲載分より選歌) 

選者 前田昭子(地中海・茅花) 

 

 

 

・ 三日目の雪もソソソソ絶え間なく我の心の隈(くま)に降り来る  大野八重子

 

・ 北風がこころおきなく泣きなよと吹くから深めのニット帽かむる  中作裕子

 

・ 朝よりこころ塞ぎて籠りゐる反故になしたる約束ひとつ  山本圭子

 

・ 受話器持つ手が冷たいと言いながらまだまだ母の話は続く  吉田千代美

 

・ 山頂をかすめて輝く太陽に富士のお山はシルエットと化す  平野隆子

 

・ パラパラと降り初む雨に急かされて女子高生との自転車レース  塩見俊郎

 

・ 一筆箋の罫いづるなき姉の筆またねと結びありて泣かるる  下村千里

 

・ この身には重きことがらばかりにて希望につながる言葉をさがす  岸本寿代

 

・ 林道の轍に溜まる水の面が紅葉の山を細く映せり  馬場久雄

 

・ 忽然と消えてその後を知らざりき老いの商家を雪しぐれ打つ  青田綾子


十首選 2017年4月号 (平成29年2月号掲載分より選歌) 

選者 黒崎由起子(旅笛) 

 

 

・ こんな俺をいやしてくれるか赤トンボひとり居の我の肩にとまりく  井奥輝明

 

・ 校庭のメタセコイアの影長し静かなる刻の流れる学舎  多田千枝子

  

・ 南天の枝に蛙が刺さりおり天に向って泳ぐかたちに  吉田千代美 

 

・ 久々に澄みて影なき空仰ぐ家解体の音響くなり  桃原佳子

  

・ 冬の空ひいふうみいよ十一個色鮮やかな気球の浮かぶ  中作裕子

  

・ 鮮やかなエジプト青は地中海の空を写すかポンペイの壁画  平野隆子

  

・ 墓じまいしたる跡地に佇みて草抜く母の背思い出しいつ  吉永久美子

 

・ ゆるらかに杖もち進む老人は銀杏の落葉をひとひら拾う  大西迪子

  

・ 岩の間の藍に淀める沢水に紅き葉一枚漂いており  馬場久雄

  

・ 山はだに柚の実熟るる笠形の谷あいの村に陽はふりそそぐ  岡田恵美子

 


十首選 2017年3月号 (平成29年1月号掲載分より選歌) 

選者 久米川孝子(コスモス) 

 

 

・ 終日を激しき雨降る日曜日サッカーボール道に転がる  桃原佳子

 

・ 柿の木のお札の肥料にあやかりて盛りあがり咲く花杜鵑  下村千里

  

・ 荷の中の北海道新聞すて難く日の過ぎたるを丁寧に読む  岸本寿代 

 

・ 夕されの狭庭にしばし座しながらひとりの時空に入りてゆきたり  吉永久美子

  

・ 明石大橋橋うらの太き水道管秋晴れすがしき淡路へ続く  西村千代子

  

・ ほほゑめるアンネ・フランク偲ぶごと一重のばらが風にゆれゐる  山本圭子

  

・ 麦刈や田植を手伝う生活がガリ版刷りの中に息づく  吉田千代美

  

・ 樹木医の治療を受けて楷の木は百一歳に今年なるらし  中作裕子

  

・ 仕事終え自転車押して帰りおり夜中の霧に体の重し  上田知子

  

・ 八百年版木を守りし経蔵は木立の中にひときわ静か  平野隆子

 


十首選 2017年2月号 (平成28年12月号掲載分より選歌) 

選者 土居 正(水甕) 

 

 

・ 夏越えし吾のいのちを朝夕の爽やぐ風は越えてゆきたり  大塚公夫

 

・ 曼殊沙華は背筋伸ばして咲き続く入日に小さき炎あげつつ  西村千代子

  

・ 次男来て長男も来る日曜日別段の用もなくだべる一日  柴田虎雄 

 

・ 隣席のスマホに夢中の少年が不意に立ちたり「ここで降ります」  宮脇経子

  

・ 長ながとコンテナ積みて貨車はゆくわがスカートの裾巻き上げて  吉永久美子

  

・ 枝豆を濡れ縁に捥ぐ自らの鋏の音に秋を酔ひたり  岸本寿代

  

・ 息せきて遅れ来しこと詫びている友の手ほんのり酢の匂いせり  尾花栄子

  

・ イカロスの今際(いまは)のさけび夕暮るる渓に響ける五位の鋭声は  下村千里

  

・ 精いっぱい生きているかと自問する川原いちめん咲く彼岸花  岡田恵美子

  

・ 虫の音も聞こえぬほどの難聴が初秋のとばりの音を聞くなり  井奥輝明

 


十首選 2017年1月号(平成28年11月号掲載分より選歌) 

選者 生田よしえ(水甕) 

 

 

・ 羽音させ親鳥きたり雉鳩のひなの餌を欲る声はあまやか  浮田伸子

 

・ 葉にさやる風は秋なり豆畑の畝に沈みて草を抜きいつ  青田綾子

  

・ つばくろも少子化なるか土の巣に二つ黄色のくちばしさわぐ  井奥輝明 

 

・ 彩あわき扁壺に思い残しつつ五条の坂の木の家辞しぬ  内山嗣隆

  

・ 浮雲はゆっくり海へ移りゆくそよぐ稲田に影を曳きつつ  桃原佳子

  

・ 都の知事に誰がなろうと北窓の玻璃に動かぬわが家の守宮  ひさの盈

  

・ 秋風の所為かも知れずひたぶるに鬼宝集斬の墓訪ねたし  岸本寿代

  

・ あじさいの真っ赤な花につと触れて遠ざかり行く男の背中  大西迪子

  

・ 新しき掃除機の吸ひしわたぼこり夏陽の中にほはほはと燃ゆ  大野八重子

  

・ ひらひらと人は手を振り別るるかけふも病院の兄に手を振る  下村千里