十首選 2018年3月号 (平成30年1月号掲載分より選歌) 

選者 たなか みち(群帆) 

 

 

 

・ 待合室のテレビの前に座す人の広き背見つつ小半時すぐ  大西迪子

 

・ 刈田みな鋤き起こされて乳色の湯気あげており冬に入る朝  青田綾子

 

・ つはぶきの花粉をまとひあげは蝶羽音かそかに小春日の中  井奥輝明

 

・ 満員の電車にぐいっと押して乗るここ一番に出る力あり  永瀬絹子

 

・ 畑へ持ちゆくペットボトルは妻二本吾は一本仕事の量(はか)なり  上月昭弘

 

・ 安宿の部屋に掛かれる絵のような景色を車窓に見つつ微睡む  内山嗣隆

 

・ ひもすがら二階に過ごす夫なりとりたてて仲の悪しきにあらねど  宮脇経子

 

・ にんまりと笑む口のごと三日月は群青色の空に輝りおり  上田知子

 

・ くるくると内に巻きたりる神経をカモミールティーでゆるりと解く  中作裕子

 

・ 辞書破り山道の草を巻きて吸ふ戦後の父は咳たへざりき  浮田伸子

 

 

 


十首選 2018年2月号 (平成29年12月号掲載分より選歌) 

選者 西村久代(六甲) 

 

 

 

・ 曼珠沙華むれ咲く畦に風走り焼き尽くさるる夏の日のこと  平野隆子

 

・ 小さき舟が牡蠣の筏を横切りて波紋拡がる朝凪の海  塩見俊郎

 

・ キラキラの海を背中にしょってみる 秋晴れの空 田は黄金色  中作裕子

 

・ 蚊が来て耳たぶをちくりとさす蜜柑キウイと秋の香豊か  柴田虎雄

 

・ 爪染めて紫蘇の実一気にすごきおり下手な鼻歌手の甲の腫れ  尾花栄子

 

・ いわし雲被う刈田の捨案山子夫婦そろって空を向きおり  馬場久雄

 

・ 『富士日記』千二百ページを読み了えて刈田が月に匂う野に出づ  青田綾子

 

・ 朝夕は秋へと進み日の陰が道をへだてたバス待つ場まで  向 光

 

・ 解けぬまま悪夢の中をさまよいて今宵も一夜を過ごしていたり  田角美恵子

 

・ すっぽりと書斎の窓に納まりぬ秋ひと色の向かいの山が  内山嗣隆

 

 


十首選 2018年1月号 (平成29年11月号掲載分より選歌) 

選者 小林幹也(玲瓏) 

 

 

 

・ うす紅の空を映してアムールの川面たいらかに明けてゆくなり  青田綾子

 

・ 赤とんぼ夕日を浴びて竿の先に並びてをりぬ台風すぎて  井奥輝明

 

・ 好きな娘に届けむ花を助手席に残し逝きたる十九の青年  岡田恵美子

 

・ 老眼鏡に息を吹きかけ磨きおり秋の立つ日の読書の合間  中嶋啓子

 

・ ブロックの間に顔出し蜥蜴の子「暑いですね」と首傾ける  上月昭弘

 

・ 飼い犬の座りいし後の暖かし長月の風昨日より吹く  恒本眞弓

 

・ 青年となりし子きたり水槽のめだかの子移す二ミリほどを  浮田伸子

 

・ 退院の決まりし友の杖の音深夜に響く遠く近くに  下村千里

 

・ 知らぬ子に挨拶をされとまどいぬ百日紅ちる朝の小径に  大西迪子

 

・ 山蔭の神社に御座す狛犬の牙剥く顔に木洩れ日とどく  馬場久雄